2017年9月21日木曜日

帯広の家 外壁解体工事 その2

 
 
 
前回お伝えした、外屋の雨水が壁に侵入し通気胴縁を腐らせた部分の拡大写真です。この部分はどうやら竣工直後から問題があったようです。写真の胴縁に映るビスの頭に注目。30年前にはなかった角ビットです。要は竣工後の外壁補修の際に同じような状態が見つかり、補修したのでしょう。しかし根本的な漏水を始末しなかった(出来なかった?)ために同じ状態を繰り返してしまったようです。この状態だと板金の裏にまで水が入り込み土台を痛めているかもしれません。大工さんにお願いして一度断熱材を全て取り除いて現状を確認する必要があります。
 
こちらは黒アリの蟻道です。一般に板状断熱材、特に押し出し法ポリスチレンのXPS等は耐水性が高いと思われがちですが、実際はかなり吸水します。なので通気層に対しては水に弱い繊維系断熱材と同様に、防風+防水+透湿シート(タイベック等)で表面を覆います。水分は必ず蟻を呼び被害を拡大させてしまいます。1階の面積が大きくて2階が小さい建物。平たく言えば外屋が多い建物は特に雨仕舞いが大切だな~と実感します。
 
こちらは通気層内部を流れた雨水がサッシとの隙間から躯体に入り、それに呼応するように蟻が入り込んだ痕跡です。
 
こちらは断熱材自体を食い破り濡れた柱や桁を目指した痕跡です。重要点検箇所になります。
 
建物の気密不足は、恐らく大量の隙間風を室内にもたらしたのだと思います。北海道の家は冬場室内を丸ごと暖かくするのが当たり前ですから、内外温度差の拡大で換気量(隙間風)は増大します。原理的には柱の外側で気密+断熱されているはずなのに室内が寒くてたまらない。この現象は当時の作り手も気付いていたのだと思われる痕跡が上の写真です。外張り断熱なのに壁の中に部分的にグラスウールが入れられています。これは壁の中を通り天井裏に吹き抜けようとする隙間風を止めるための気流止めです。写真で見ると断熱材が落ちないように幅広の横材が見えます。ここが解体前の天井のライン。グラスウールがなければ壁内の空洞と天井裏がつながるのがよく分ると思います。しかしそうした努力も虚しく壁内の気流を止める事は難しかったようです。写真を見るとグラスウールの上部がかなり黒く変色しています。これはダスティングと呼ばれ水分を含んだ空気が通気性の高い繊維系断熱材の中を通り抜けた際に残す痕跡です。
 
話は変わりますが、30年前に外張り断熱派と覇を競い合ったもう一つの断熱構造、充填断熱派が気密性を確立するために苦心したのもこの気流止めでした。そもそも在来木造の家というものは極力家の内外をなくし徹底的に外気に開放するように作ります。要は壁も床下、屋根裏、間仕切壁に至るまで通気性を確保し前述のような水による害から自身を守るという自己保存の設計思想こそその本質です。一方「断熱」とは内外を明確にすることを意味します。外気が入ってきてよいところとそうでないところ、水分も全く同じです。両者は特に相互依存の関係が強いですから、慎重にディテール(詳細)を詰めねばいけません。

しかし今改めて見ると、本質的に隙間風の確保を目的に作られて来た在来木造を、それとは反対の構造に作り変えることは至難の業であったのがよく分ります。剛床と呼ばれる床先行工法の発達、壁の中の筋交いをやめて、外周部の柱外に合板を貼る耐力面材の普及。こうした構造レベルの進化や革新なくして問題は解決しなかった。現場はいつも新鮮な気付きを与えてくれます。

敷地のある十勝地域の作り手の多くがこうした現実の中で、気密化の難しい在来木造から枠組み壁工法にシフトしていったのもある意味自然な流れだったのかもしれないと、今にして腑に落ちた感じがしました。
写真は厚み45mmの隙間(通気層内)に作られた鳥の巣の痕跡。在来木造によく見られる小屋裏や床下といった未利用空間はさまざまな動物の営巣場所でもある。街の生態系を健全に維持するために共存できる方法はないものだろうか?と考えさせられる。
 
さすがに奥行き45mmの家では窮屈だったと見えて断熱材を破って小屋裏に入ろうとした跡。
 
当時のユニットバスは気密もよくない。特に浴室内の換気を疎かにすると大量の水蒸気が窓の隙間から外部へ移動しその過程で露点を生じる。UBを交換するのでその際の重点修理ポイントです。
 
こちらは2階バルコニーの柱が屋根の板金と断熱材を貫通し1階の桁上につながっている十字交差部分。柱の根元から漏水し下の桁を痛めここにも黒アリが侵入している。こちらも重点修理ポイントとなります。
 
ところでこの人凄い!松原正樹よ永遠に